八重原の自然を次世代へ。

白倉ファーム 白倉卓馬さん

cafe & marchr ichinii…で使っているお米、「八重原(やえはら)米」の産地を訪ねて、長野県東部、東御市(とうみし)にある白倉ファームを取材しました。

八重原米のおいしさの秘密

「この辺(八重原)には水源がないんですよ。どうしているかっていうと、あの雲の下にある蓼科山から水を引いて成り立っているんです」

白倉ファームの水田(正面奥の雲が被っている山が蓼科山)

梅雨の中休み、東御市八重原にある白倉ファームを訪れると、代表の白倉卓馬さんは、はるか向こうの山並みを指差して、そんな話を始めました。

八重原は、東に浅間山、西に蓼科山を望み、丘陵が起伏してまるで八重の原のように見えることから名付けられたという、美しい台地です。台地上に水源はなく、江戸時代の開拓者が、蓼科山にある水源地から水を得るため、約50kmにわたる「八重原用水」をひいたことで、水稲栽培が可能になりました。

水田に引き込まれた八重原用水

「水源地から50kmという長い距離と長い時間をかけて運ばれてくるので、水がお米にとってちょうどいい温度に温まって、たっぷりのミネラルを含んだまま田んぼに水を張ることができるんです」

白倉さんによると、八重原の土地でおいしいお米が作れる理由はそれだけではありません。

北東には浅間山が望める八重原台地

「ここの土は平安時代には焼き物に使われていたほど、質の高い粘土なんです。透水性が低く、保水力が高いから、お米に必要な栄養と水分をしっかり保ってくれます。ここは標高700mのちょうどプリンのような形の台地の上にあって、風通しがよく、気温の日較差が大きいので病害虫が出にくいです。あとは、全国でもトップクラスの日照時間があることですね。晴天率が高いので、稲は光合成がしっかりとできて、甘みのある充実度の高いお米ができます」

循環する農業

「できる限り自然が循環する方法で、おいしいお米が作れないかと試行錯誤し、土作りに力を入れています。水田に発生するメタンガスの量を減らし、地力を上げることが課題です」

稲刈り後の田んぼに稲藁が秋に大量に残ると、翌年までに分解されず、水田にメタンガスが発生し、雑草が生えやすくなります。それを防ぐため、白倉ファームでは、稲藁をコンバインで裁断した上で、ロールにして持ち出し、鶏糞、きのこかす、米糠・籾殻を混ぜて十分発酵させてから、堆肥として田んぼに戻す”秋おこし”に力を注いでいます。

「“秋おこし”をすることによって微生物が活動しやすい状況を作ると、雑草が生えにくく、農薬の使用量を抑えられるんです」

雑草が少ない白倉ファームの水田

特筆すべき点は、その過程で、余った稲藁を地域の果樹園などで使ってもらったり、地域の畜産農家で余った牛糞や鶏糞、きのこメーカーからはえのきかすをもらったり、地域と連携しながら、資源を有効活用して循環させていること。白倉ファームの環境保全循環型農業は社会的評価も高く、各地のお米屋さんや酒蔵からのオファーを多く受け、現在は、通常のお米4品種に加え、4品種の酒米を無農薬または、農薬使用を基準の半分以下に抑えた減農薬で栽培しています。

県内のぶどう園で活用されている籾殻

「20年以上この農法で無農薬栽培をやってますが、圃場によって米糠を入れるタイミングが微妙に違ったり、まだまだ分からない部分も多くて、勉強しながらやっています」

と照れ笑いした白倉さん。白倉さんの農業への情熱はどこから生まれているのでしょうか?

守り継ぎ、未来へ伝える。

「もともとは建築に興味があって、建築系の大学を出たんです。住宅業界でバイトをして、住宅会社への内定ももらっていたんですけど、いろいろすったもんだがあって…」

紆余曲折を経て、実家の家業を継ぐ決断をした白倉さん。

「小さい頃から農作業の手伝いをしてきたので、農業に対する抵抗は特になかったですね。先祖がずっと守ってきた農地を継ぐことは、大切な役目だと思ったので。今思えばサラリーマンの方が楽だったかもしれませんが(笑)」

白倉ファーム代表の白倉卓馬さん

当初は、両親と海外からの研修生の3人で、現在の1/4ほどの規模で米作りをしていましたが、白倉さんが戻ってきたことで、徐々に耕地面積を増やし、冬は大豆栽培も始めました。2014年には「株式会社白倉ファーム」として法人化、4名の従業員を抱える会社の経営者となった白倉さん。全国的に米の消費量が減り、減反政策が進められる厳しい状況の中、酒米作りを行い販路を拡大するなど地道な努力を続けてきました。

「350年前に先人たちが一所懸命に開拓したこの土地で、一生懸命に”いいもの”を作るだけじゃなくて、”いいもの”をいかによい状態でお客様に提供できるか、を常に考えています。収穫したお米は低温で米室に保管し、注文を受けてから精米をしたり。ひと手間かけることで、お客様からおいしかったと喜んでもらえることが、一番嬉しいですね」

近年、米の輸出を行う会社を知人と共同で設立し、海外への販路開拓にも取り組んでいるという白倉さんに、今後のビジョンを伺うと、「八重原米の認知度を上げること」と即答でした。

「農家は昔から米を食い尽くすことはなく、種籾を残して、次の年へと繋げてきました。それと同じように、ぼくらも自分達の世代だけがよければいいというんじゃなく、次の世代のために財産を残していかなきゃいけない。八重原の自然を守り、八重原米の認知を上げることで、次世代の暮らしがよくなればいいと思っています」

八重原の環境を最大限に活かし、地域と繋がりながら地域に還元する農業を行う白倉ファーム。そのお米の美味しさをぜひ一度お試しください。

information

株式会社白倉ファーム

長野県東御市八重原320
TEL 0268-67-3000

http://www.shirakura-rf.com

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