朝日村からアガベの魅力を発信

Shiroki Nursery 白木健太さん

cafe&marche ichinii…に、アガベ(多肉植物)の鉢植えが置いてあるのをご存知ですか?
今回は、知る人ぞ知るアガベの世界へ。長野県中部、朝日村でアガベ栽培に取り組んでいるShiroki Nursery(シロキナーセリー)を訪ねました。

アガベとの出会い

アガベ(agave)は、メキシコを原生地としてアメリカ大陸全体に分布している多肉植物。その茎から取れるエキスはテキーラの原料としても知られています。直径5cm程度の小さなものから5mを超す巨大なサイズまで様々な品種があり、日本では高度経済成長期以降、観葉植物としてじわじわと人気が広まり、株分けをしながら栽培する栽培家も現れました。

朝日村でShiroki Nurseryを運営する白木健太さんも、アガベ栽培家のひとり。

シロキナーセリーのアガベ

「わたしも栽培を始めてから知ったんですが、長野県はサボテンや多肉植物の栽培に向いている環境で、かつては盛んに栽培していた地域だったそうです。品種にもよりますが、アガベは、日照時間が長く、低湿度で、寒暖差がある気候と相性が良いんです。ここ(朝日村)は、名前にもある通り、朝陽が早く昇り、日照時間が長い点や寒暖差がある点で、生育環境には恵まれています。ただ、冬は原生地よりもぐっと寒いので、温度管理が課題ですね」

シロキナーセリー(朝日村)

取材に訪れたのは、2月の中旬。雪景色と南米原産のアガベとのギャップがとても印象的でした。

「このハウスは、祖父が残したもので、(亡くなってからは)使われていないのが勿体なかったので、何か手軽にできて売れるものを作ろうと、植物栽培用にリビルドし、アロエやリトープス、ハオルシアなど、当時はやっていた植物を栽培し始めたんです。その中で、唯一うまくいったのがアガベでした」

アガベ栽培を始めた経緯について、白木さんはそんな風に話し始めました。

アガベの生育状況をチェックする白木健太さん

朝日村オリジナルのアガベを作るために

現在、自宅の近辺にある3棟のビニールハウスで、アガベを中心に多肉植物を栽培している白木さんは、普段は運送会社に勤める会社員。一家の主として家族を支えながら、副業でアガベ栽培をしています。

「学生時代から登山が趣味で、子供が生まれるまではけっこうハードな山にも登っていました。登山は山道具を揃えたりお金がかかるので、その資金を稼ごうと、初めは家の不用品をオークションで売ったりしていました。そのうちにハウスで何か作って売ったら面白いんじゃないかなと思うようになったんです」

山が好きで学生の頃は冬山登山もしていた(白木さん提供)

初めは趣味の延長だったアガベ栽培。しかし、ネットオークションで売ったり、インスタグラムで発信したりするうちに、様々な人との繋がりが生まれ、白木さんは、徐々にその奥深い世界の虜になっていきました。

「始めたころは手探りでしたけど、“信州サボテン倶楽部”という栽培家の集まりに参加したことが大きかったです。安曇野や松本で栽培している先輩方の畑を見に行かせてもらったり、栽培方法なども参考にさせてもらって、小規模から始めました。何度も失敗を重ねながら、うまくいった方法だけを採用して8年ぐらいかけて徐々に拡大していきました

白木さんが「師匠」と呼ぶ“カクタスキキ”林さんの圃場(白木さん提供)

多肉植物といえば、鉢植えが並んでいる様子を想像しますが、白木さんのハウスの中は一面の土。土作りにも力を入れていると言います。

すべて種子から栽培するのが白木さん流

「規模が大きくなっていくうちに、大量に使うものは低コストで手に入れられないかと考えるようになりました。例えば建材屋さんから買った川砂や、精米所から無料でもらってきた籾殻などです。籾殻は田んぼで焼いて、燻炭にして土に混ぜ込んでいます。オリジナルの素材でオリジナルの土を作って栽培することで、植物もこの土地ならではのオリジナリティを持った株に成長していると思います」

不要になった籾殻を焼いて燻炭を生成(白木さん提供)

圃場も素材も身近なものや廃材を生かして、できるだけコンパクトにすることは、大規模・大量生産とは真逆の発想。そうすることで、サラリーマン生活とどうにか両立しながら栽培ができているという白木さん。以前は、ネット販売も行っていましたが、発送作業などに膨大な手間と時間がかかるため、現在は注文を受けたら対応するシステムに変えました。

「ネット販売だけだったら、それに長けている方は日本中にいっぱいいますし、私がやらなくてもいいと思いました。だから、お客様に圃場に来て、アガベの生育環境を見てもらったり、手に取って楽しんでもらう体験も含めて販売することを考えています」

耕作放棄地の畑を借り、お客様の見学専用ハウスを新設(白木さん提供)

次世代の作り手を増やすために

遠方から来たお客様には、自身の圃場だけではもったいないので、友人の栽培家のハウスまで案内したり、時には隣村の先輩農家を紹介することもあるという白木さん。設備投資や手間を考慮すればほとんど利益はないというアガベ栽培に、それほどまでに情熱をかけるのはどうしてでしょうか?

同じ朝日村でアガベやサボテンを栽培している友人のゆうじさんと情報交換

「長野県の素晴らしい自然環境の下で、地域の素材を集めて大きくなったアガベは、自分にとって“元気玉”なんです。アガベを通して同世代の栽培家や大先輩と出会ったりして活力をもらえますし、休みの日にアガベを見ながらビールを飲んだりするのが最高です。嫁さんには、冷ややかな目で見られていますけど…だから畑に出る日は家の掃除洗濯、料理までしっかりやってから、出かけるようにしてます(笑)」

ハウスの横に自作したベンチで息子さんとくつろぐ至福のひととき(白木さん提供)

今年からは、信州サボテン倶楽部の理事に任命されたという白木さん。高齢化が進み、サボテンやアガベの栽培家が減少していくなか、白木さんたち若手栽培家の存在は貴重。

「歴史ある倶楽部の活動を存続し、長野県の強みを活かした、オリジナリティある株を世に送り出していくために、自分達が師匠たちのような作り手にならなくてはと思います。まだまだ力不足ですけど..まずは若い世代の仲間と作り手を増やしていくことが一番の課題です」

信州の自然とそこで育てるアガベへの愛情、そして栽培家仲間を大切に思う気持ちが、白木さんの活動の原点。そんな白木さんの愛をたっぷりと受けたアガベは、さらに美しく、たくましく、育っていくことでしょう。

information

Shiroki Nursery(シロキナーセリー)

長野県東筑摩郡朝日村西洗馬
TEL 090-2639-7807

圃場見学・販売対応日:不定期営業(要事前連絡)

https://www.instagram.com/shiroki_agaves_nursery/

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