ひとつぶひとつぶに想いを込めて。
長野市の南部、篠ノ井地区でぶどうと桃を栽培しているベテラン農家、まゆみさん。忙しい畑仕事の合間に、果樹栽培を始めたきっかけやその魅力ついてお話しを伺いました。
作り、育てる喜び
「お客さんはこのぶどうの実、ひとつぶひとつぶにお金を出して買うんだと思うと、こういう細かい作業も一生懸命になっちゃいます」
取材に伺ったのは5月の終わり。前日の雨でしっとり濡れたぶどう棚の下で、まゆみさんは、花になる前のぶどうの蕾を摘み取る作業の最中でした。まゆみさん曰く、それは“もじゃもじゃ”のぶどうの蕾の塊を整える作業。ぶどうが逆三角形の形にきれいに房を作るように、欠かせない工程です。
現在、まゆみさんが栽培しているぶどうの品種は、スチューベン、ナガノパープル、シャインマスカット。昨年からは、新品種のクイーンルージュとクイーンニーナにも挑戦中です。
「巨峰は人気が落ちてきているし、色を付けるのが大変だからやめて、まだ出たばかりのクイーンルージュを始めたんです。シャイン(シャインマスカット)は人気で、作る人も増えきてるから、新しいものをやってみようと」
ぶどうは、苗木を植えてから棚になり、出荷できる数の房がつくまでには約3年の月日がかかるといいます。ただ植えれば実るわけではなく、一年中手入れし、管理することを考えると、その苦労が思いやられます。
「そりゃぁ、疲れてくれば嫌になることもありますけどね。やってるときは夢中ですよ。自分の頭で考えて、やることや順番を決められるから楽しいですね(笑)。自分だけで決めるんじゃなくて、植物の成長に合わせて、今日はこれ、明日はこれという感じで決めるんです」
努力と情熱の結晶
農業の面白さをそんな風に教えてくれたまゆみさんは、長野県佐久市出身。地元の金融機関に勤めていたものの、結婚を機に退職し、旦那さんの実家(当時は米農家)に入りました。
「まさか農家にお嫁に来ることになるとは思ってもなかったですよ。ぶどうを作り始めたのは、私がお嫁に来て3年目ぐらいだったかな。国の減反政策で、この辺でも米からぶどうに切り替える人が多くなって。子育てしながらできるもの、ということでぶどうとアスパラなら作れるかなと思って始めたんです。」
初めは手探りだったものの、知人に教わったり、農協のぶどう栽培講習会で学んだり、技術員に来て指導してもらったりして、徐々に技術を習得したまゆみさん。
3人の子供を生み、幼い子供を畑で寝かせたり、遊ばせたりしながら、晴れの日も、雨の日も、畑仕事に勤しんできました。
初めてぶどうの苗木を植えてから約40年。70歳を超えた今もなお現役で、ぶどうと桃の栽培を続けています。
「そろそろ引退したいと思ってるんだけどねぇ…(体力的にも)限界があるよねぇ。でも、やらなくなったらそれはそれで寂しいかもしれないね(笑)。今は近所に嫁いだ長女や嫁さんがよく手伝ってくれるから、とても助かっています。」
まゆみさんが丹精を込めて作った果物は、きっと甘いに違いないでしょう。秋には、ぜひその味を確かめてみたいと思いました。
滝澤農園
長野県長野市篠ノ井
出荷時期
桃:7月下旬〜8月下旬 ぶどう:8月下旬〜10月